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呼吸器インターベンション,Interventional pulmonologyのニュース,考察を配信します.肺の病気に対する安全で正しい診断,および非薬物治療のニュースです.

気管支鏡検査の苦痛

検査はもちろん,治療であっても苦痛は最小限にすべきである.

侵襲行為には痛みや苦しさがつきものではあるが,それを最大限排除するのが医療者の腕の見せ所.

気管支鏡検査は苦しい検査,これは現在否定しようのない事実.

胃カメラ,大腸カメラ,気管支カメラいずれも経験した患者さんの話をきくと,胃カメラ<大腸カメラ<気管支カメラという順でやはり気管支鏡は苦しいという感想をいただきます.

普段,物が通るところではないので,咳反射が苦しい.

全身麻酔をして気管支鏡検査(治療でなくて)をする施設もありますが,日本の多くの施設では局所麻酔です.

 

喉頭から気管,気管支へと局所麻酔薬を噴霧,滴下しながら進んでいきますが,ここがポイント.

局所麻酔薬を使いながら ➡ 進んでいく ,この順番です.

進んで,咳がでたから局所麻酔薬を使う,という感じで進む人がいますが,それでは患者さんは苦しい.

咳がでないように,無駄に内腔に接触しないように注意しながら進むのは当然ですが,それでもいくつかの箇所では接触します.局所麻酔薬の中毒量に注意しながらも,しっかりと麻酔薬を使用しなければなりません.

 

局所麻酔薬だけでなく,静脈麻酔薬の使用は考慮したほうがよいでしょう.

その細かいエビデンスは今回は省きますが,明らかに静脈麻酔薬併用をした方が患者さんの苦痛は減ります.医療者側として気を付けなければならないのは,呼吸抑制,舌根沈下といった低酸素血症につながるトラブル.

これは医師だけでなく,検査に入る看護師もよく留意しておかなければなりません.

カメラが入っているから気道が確保されているかと思ったら大間違いで,舌根沈下がおきればカメラが通ってようと気道は閉塞されます.下顎挙上やネーザルエアウェイ挿入で対応します.

鎮静の度合いを見ながら施行する方法もありますが,理学所見やバイタルモニター所見で注意しながら施行する施設が多いでしょう.

 

二度と受けたくない,を減らす

肺癌に関していえば,近年治療の選択肢が広がり,生存期間が延び,場合によって何度も癌の生検が必要になる場合があります.それは治療選択という重要な場面です.

そのときに,以前受けたとき苦しかったのでもう二度と受けたくない,と言われてしまうと,気管支鏡検査を行う者として責任を感じるものです.

気管支鏡検査の苦痛を全くのゼロにするのは難しいでしょうが,可能な限り減らしたい.これは気管支鏡医の腕だけではなく,チームとしての働きが大切です.

Electromagnetic navigation bronchoscopy -Review

f:id:Reviewer2:20201031100212p:plain

Sensitivity and Safety of Electromagnetic Navigation Bronchoscopy for Lung Cancer Diagnosis: Systematic Review and Meta-analysis.
Folch EE, Labarca G, Ospina-Delgado D, Kheir F, Majid A, Khandhar SJ, Mehta HJ, Jantz MA, Fernandez-Bussy S.
Chest. 2020 Oct;158(4):1753-1769. doi: 10.1016/j.chest.2020.05.534. Epub 2020 May 23.

 

Electromagnetic navigation bronchoscopy 略して,ENB,

(Electromagnetic navigationでEMNの略もたまに使われます)

 

日本では数施設のみが使用している比較的新しい技術になりますが,よく例えられるのは,GPSで誘導してくれるカーナビ,しかし,個人的にはカーナビと同じと考えてはいけないと思っています.それは後半に説明しますが,

 

世界的にはENBの歴史は意外に古く,エビデンスはそれなりに集積されています.これまでにReviewは複数でています.

2014Gex論文と呼ばれるRespirationのReviewを参考にしていましたが,最近,タイトルのReviewがでて更新されました.

Sensitivityは77% (95% CI, 72%-82%; I2 = 80.6%)

Pneumothorax 2.0%, Minor bleeding 1.0%, Major bleeding 0.8%

 

ほとんどのENB systemがSuperDimensionを使っています.いくつかのStudyでSPiN systemが含まれています.

SuperDimensionでいうと,Extended working channel (EWC)といういわゆるガイドシースの大きい版を使って,デバイスを入れ替えます.はじめはLocatable guide(LG)を一緒に挿入してナビゲートされます.(LGの先端にセンサーがある)

 

これにR-EBUS(ラジアル型)を組み合わせるといいですよ,というのが,あの有名な2007Eberhardt論文です.

Multimodality bronchoscopic diagnosis of peripheral lung lesions: a randomized controlled trial.
Eberhardt R, Anantham D, Ernst A, Feller-Kopman D, Herth F.
Am J Respir Crit Care Med. 2007 Jul 1;176(1):36-41. doi: 10.1164/rccm.200612-1866OC. Epub 2007 Mar 22.

この論文も今の気管支鏡医からすると当然だろうね,という感想なのですが,それをきちんと3群(R-EBUS vs ENB vs R-EBUS+ENB)で比較したことに価値があったと思います.

 

あえて,ENBの弱点を書くと,

それ単体ではあくまでElectromagnetic fieldを使って,ここら辺だよ,というのを立体的にVirtualに示しているだけなので,ピンポイントにターゲットの採取場所を狙うにはR-EBUSで位置をConfirmするプロセスはスキップしてはいけないです.(ターゲットが大きいなら別にいいけど)

2cmない大きさの末梢結節を狙うのならば,基本的に,ENBはナビゲーションのツールであって,Confirmするためのツールではないことに留意すべきだと思っています.

 

前半に,カーナビに例えられるという話を出しましたが,個人的にはあまり好きな表現ではありません.なぜならこのナビはリアルタイムではないからです.

ENBに用いる立体再構築の画像は,事前のCTから作られます.大きく住所が変わらないならOKですが,呼吸運動でずれる気管支のルートを1mmのくるいもなしにナビするのは難しいでしょう(呼吸運動を考慮したルートの補正アルゴリズムは含まれていますが).なのでやはり小さめの結節を狙うにはこのナビにプラスしてConfirmするツールを併せる必要があります.

 

それから検体採取している最中はセンサーのついたLGを抜去しているのでリアルタイムモニタリングされていません.(VeranのSPiNにはついてますが.)

 

しかし以上のような弱点を考えても,

このナビなしの診断率と比較すると飛躍的に上がるのでそのナビゲーション能力は秀逸です.

SuperDimensionの大規模研究のNAVIGATE studyの最終報告が待ち遠しいですね.

 

 

最新情報のUpdate方法

Interventional pulmonology (IP)分野の最新情報をupdateしたい場合,

いくつか選択枝があります.

 

・Review articleを読む

Pubmedで検索

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/

“Article type” をReviewに設定して,自分の興味ある分野のキーワードを入れる (“Bronchoscopy”とか“Interventional pulmonology”とか)

 これは基本です.

 

Pros:簡単に網羅しやすい,最新の情報がそろっている.孫引きできる参考文献が載っている.教科書より安価もしくは無料.

Cons:英文.範囲は広いが浅い.実用的でない(臨床では使われていない)内容が載ってたりすることもある.

 

・教科書を読む (日本語)

とりあえず最近でた教科書を読めば,だいたいのことはわかる.

 

Pros:読みやすく書かれている.図が多くイメージしやすい.

Cons:高価.臨床にFocusされていることが多く,研究段階のものを知るのは難しい.

 

 

Reviewer#2(私)の場合,

 

RSSリーダーを使う

私は Feedly  を無料の範囲で使っています.

feedly.com

https://feedly.com/

 

キーワードを設定したPubmedのリンクを設定しておけば,最新論文が勝手に飛んできます.これをスキマ時間に読むだけ.

設定方法はニーズがあれば書きます.

 

Pros:網羅的に取りこぼしなく,設定したキーワードに関連する論文は拾える.狭い分野なので,そこまで大量の論文は飛んでこない.

Cons:当然,publishされていない内容は拾えない.

 

・学会に参加する

特に国際学会です.企業展示を見るのもいいですが,それだけでなく演題抄録を見るということです.

私は,抄録が手に入ったら(今はオンライン)ほぼすべての演題をcheckするという作業をします.抄録を見るだけで,最新の技術,デバイスは拾えます.

 

IP領域の演題が出るメジャーな学会を紹介します.

WCBIP                               WABIP主催,2年に一度,

ECBIP                                 EABIP主催,

AABIP annual conference  2018年より開始

CHEST annual meeting      CHESTの学会,北米開催

ATS                                     言わずと知れた呼吸器の学会,IP領域は少な目

ERS                                      

 

Pros: まだPublishされていない内容のものも知ることができる.直接関係者とコンタクトがとれる(Virtualな学会だと難しいですが).論文に載らない画像や動画なども見ることができる.

Cons:Virtualな学会ではうまみは少ない,参加費用が高い

 

 

・人に聞く

意外にこの効果は絶大です.

狭い領域ですので,マニアが集まると面白い情報が得られます.

どこの大学・研究室・企業が,こんな新しいことをやっている,といったものです.

もちろん言えないこともあるので,言える範囲で情報交換がなされます.

 

 

自分が何を知っていて,何を知らないのかを明確にする.(知らない技術は時間をとって調べます)

自分が知らなければいけないこととそうでないことを分ける.(IPの分野でも必ずしも全て知っておく必要はないです)

以上のことを意識しながら情報収集しています.

このBlogについて

これはBronchology and Interventional Pulmonologyの分野のブログです.

 

この分野は非常にマイナーでマニアックな領域ですが,呼吸器の病変の診断および治療に大きく関わる部分です.

なにがキートピックで,どこに注目すればよいのか,とっつきにくい領域で,ほかの分野と比べて詳しい参考図書もあまりないように思います.

 

そこで,深い議論をするのに必要な知識の整理としてこのブログ作成を開始しました.

基本的には患者さん向けのものではございません.

医療者ないし技術者向けに書いております.

備忘録に近いものですが,これがIP分野関係者のお役に立てば幸いです.

 

特定の企業に偏った発言は極力さけるようにしておりますが,狭い領域ですので,企業が限られている分野でもあります.

可能な限り論文化されているエビデンス中心の知識の共有をしていきますが,個人的な感想も含まれますので,そこは差し引いてお考え下さい.